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夢で逢えたなら~後宮秘談~

第2章 揺れる、心

 大王大妃は今でもまだ若かりし頃の美貌の名残を十分に残す面に複雑な表情を浮かべた。微苦笑とでも言えば良いのだろうか、ほろ苦く微笑したその美しい気品に満ちた顔の中で、ただ一つ、眼だけは笑っていなかった。今をさること五十年前、十二歳で初めて出逢った後の良人―道祖(ギルジヨ)の心を一瞬で射止めたという棗(なつめ)形の美しい双眸は怖ろしいほど冷え切っていた。
 怖い、と、百花は思った。五人の側室たちに向けるまなざしの優しさ、やわらかさに比べて、この違いは何なのだろう。一体、自分が何をしたのか。それとも、大王大妃も人間だから、一介の女官が孫である国王に無礼を働き、王が身を挺してまでその不届きな女官を庇ったことが腹立たしいのだろうか。

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