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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い

 こんな極上の布地を汚してしまっては、手間賃どころか弁償すらできない。小紅はその日はもう諦めて布地をきちんと畳み、裁縫箱とともにしまった。
 そのまますり切れた畳に寝っ転がる。眼を閉じて、うーんと伸びをすると少し肩の凝りがほぐれていくような気がした。
 その時。頭上から声が降ってきた。
「―こう、小紅」
 小紅はあまりのことに愕いて、飛び起きた。見ると、栄佐の美麗な面が間近にある。途端に心ノ臓が跳ねた。

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