一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い
「栄佐さん」
「まるで上の空だな。俺が何度呼んでも、惚けたように返事もしねえで」
どうも返事をしなかったことで、栄佐の機嫌は悪いようである。もっとも、それをいえば、半月前に龍馬と栄佐を訪ねてからというもの、栄佐とはまともに口を利いていないのだ。今更、不機嫌も何もあったものではない。
「ごめんなさい。急ぎの仕立物があったものだから」
小紅は栄佐からそっと眼を逸らし、言い訳めいた科白を口にした。
「まるで上の空だな。俺が何度呼んでも、惚けたように返事もしねえで」
どうも返事をしなかったことで、栄佐の機嫌は悪いようである。もっとも、それをいえば、半月前に龍馬と栄佐を訪ねてからというもの、栄佐とはまともに口を利いていないのだ。今更、不機嫌も何もあったものではない。
「ごめんなさい。急ぎの仕立物があったものだから」
小紅は栄佐からそっと眼を逸らし、言い訳めいた科白を口にした。