一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い
「京屋の新しい旦那さまが近々、婚約なさるというので、許嫁の方の着る晴れ着を任せていただいたのよ」
栄佐が鼻を鳴らした。
「まっ、あそこも何かと大変だな。去年の春に代替わりして若い息子が身代を継いだばかりなのに、今度はその息子が店を放り出して上方くんだりまで行っちまった。今度、跡目を継いだ弟はまだ十六だっていうじゃねえか。そんな若さで京屋に縛り付けられるのも考えてみりゃア、気の毒な話だぜ」
栄佐が鼻を鳴らした。
「まっ、あそこも何かと大変だな。去年の春に代替わりして若い息子が身代を継いだばかりなのに、今度はその息子が店を放り出して上方くんだりまで行っちまった。今度、跡目を継いだ弟はまだ十六だっていうじゃねえか。そんな若さで京屋に縛り付けられるのも考えてみりゃア、気の毒な話だぜ」