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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第2章 【残り菊~小紅と碧天~】 恋一夜

 予期せぬ事実を知ってから数日後の夜である。小紅は縫い上げた袢纏を風呂敷に包み、叔父の居間を訪ねた。小紅が廊下からそっと呼ぶと、すぐに返事があった。
「こんな時間にごめんなさい。ご迷惑なら、明日の朝、また来ます」
 小紅が障子戸を細く開けて覗き込む。武平は机に向かって算盤を弾いているようだ。店の帳簿の確認でもしているのだろうか。小紅は慌てて言った。
「やっぱり、明日にします」
「いや、良いんだ」

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