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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第23章 第二部・第五話 【冬柿】 冬柿

 だが、栄佐自身には二度と屋敷に戻るつもりはない。いまだ大部屋ながら、八年間稽古に明け暮れ真摯に積み上げてきた役者としての道、更には小紅という何ものにも代え難い恋人。
 今の栄佐は既に角倉栄之進ではない。ただ人の栄佐として市井にあまりにも深く根を下ろしすぎてしまった。今更、自分が八千石の殿さまに戻れるとも、また戻りたいとも微塵も考えたことはなかった。

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