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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第24章 第二部第五話 【冬柿】 父と娘

 栄佐は頷いた。
「俺は栄佐といいます。一応、役者の端くれですが、売れない大部屋です。本業は針医者をやっていまさあ」
 流石にこんなときは婚約者の父親相手に〝売れない役者が本業〟とは言わない。小紅に惚れ抜いている栄佐の弱みだ。できれば仁助には娘の良人となるにふさわしい男だと思われたいのである。
 しかし、やはり、今の仁助にとっては、そんな些末なことは殆ど気に掛からないようだ。

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