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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

 旅立ち
 
 その日、難波屋の店先はいつになく閑散としていた。師走も半ばを過ぎ、朝から鈍色(にびいろ)の雲が分厚く江戸の町の上に垂れ込め、気分まで陰鬱になりそうな空模様である。寒さも殊の外厳しく、この冬いちばんの寒気に見舞われたようであった。
 もっとも、師走ももう、下旬になろうとしている。寒さが日毎に厳しくなるのも自然の理というものだ。

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