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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

「母上、おいででございますか」
 栄佐は外側から声をかけ、沓脱石に草履を脱いで廊下に上がった。膝をついて静かに障子を開けると、広い座敷の中程に一人の女人が端然と座していた。
 良人である先代が亡くなった後、落飾しているため、切り下げ髪のご後室姿だ。地味な装いがかえってその美しさを際立たせている。
「そろそろ、お越しになる頃合いかと思うておりましたよ」

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