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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

 いつも朗らかな笑みが絶えないお琴の丸い顔には悲痛な表情が浮かんでいる。これはただ事ではないと、小紅は立ち上がった。お琴の後に続き武平の寝間の前まで小走りに駆けてきた時、向こうから戸板に載せられた武平が運ばれてくるのが見えた。
「叔父さま!」
 小紅の哀しみに満ちた声が響き渡った。
 戸板を担いできたのは番頭と手代であった。傍らには白髪を総髪にした医者らしき人も付き添っている。

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