テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 乳母と泣いて別れたのはつい昨日のことなのに、もう何十年も経たような気がするのは何故だろう。
「小紅ちゃん?」
「あ、はい」
 小紅は長い物想いから我に返った。眼前には叔父の武平の気遣わしげな顔がある。
「済みません、叔父さま」
 叔父が引き取ってくれなければ、今頃、自分はどうなっていたか知れたものではない。良くて岡場所、下手をすれば吉原遊廓に身を沈めていたはずなのだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ