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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 心からの労りの滲んだ声音に、思わず涙が出てくる。父によく似ている叔父を見ていると、どうしても父のことを思い出してしまう。
 あんな男、父親なんかじゃない。幾度もそう思おうとした。一人娘を棄て、借金をも背負わせるつもりで若い女と夜逃げした父。後に残した娘の辿る運命がどのように悲惨なものとなるかも知った上で、父は女と逃げたのだ。

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