一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨
冷酷で血も涙もないような男を父とは呼べない。それでも、小紅は父を心底から憎めなかった。風采の上がらない中年男と駆け落ちするなんて、女が本気であるはずがない。しかも、父の相手の佐津という女は身持ちが悪いと評判の女だった。
小紅はたとえ相手が岡場所上がりの女だとしても、父を心から愛している人であれば構わないと考えていた。父はまだ四十なのだ。もう一度幸せになって貰いたいと思っていたから、再婚に反対する気もなかった。
小紅はたとえ相手が岡場所上がりの女だとしても、父を心から愛している人であれば構わないと考えていた。父はまだ四十なのだ。もう一度幸せになって貰いたいと思っていたから、再婚に反対する気もなかった。