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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第5章 【残り菊~小紅と碧天~】 いちばん幸せな日

 それはまさに、先刻、見たばかりの優美な銀に輝く鯉とは対照的だ。もしかしたら、栄佐はその美麗な面の中に相反する二つの顔を持っているのかもしれない。陰と陽。優しさと怒り。言葉には色々できるだろう。
 でも、この男を私は愛してしまった。小紅は今や、はっきりと栄佐への恋心を自覚していた。武平を忘れたわけではないけれど、彼(か)のひとはもう、この世にはいない。でも、栄佐は今、手を伸ばせば届く場所にいる。
 それが迷える自分への応えではいけないだろうか。

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