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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 良くないことは続くものだ。母の死の二年後、傾く一方だった店を何とか守ろうとしてきた大番頭が亡くなった。六十になったところであった。
 大番頭は近くから通ってきていて、小紅は到底知らん顔はできず、心ばかりの香典を持って弔いに訪れた。しかし、出迎えた息子はけして良い顔をしなかった。
―親父は上州屋さんのために寿命を縮めたようなもんだ。毎日、酒浸りの主人に心を痛めて、倅としちゃア、見てはいられなかったよ。

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