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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 罪もない町人を怒鳴りつけて怖がらせるなんぞ、武士の風上にもおけない。咄嗟にそう考えた自分を栄佐は嗤った。こういうときには物心ついたときから教え込まれた侍の義侠心というものがむくむくと頭をもたげる。
 三つ子の魂百までとは、よく言ったものだ。
「いや、判ってくれて良かったよ」
 長身の男が白い歯を見せて笑い、連れの小男の肩を叩いた。気の毒に、怒鳴りつけられた男はまだ蒼白になっている。

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