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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

「そうね、ありがとう」
 お琴もまた微笑み、膳を下げて今度こそ部屋を出ていった。もちろん、その前に小紅から返して貰った碧天の錦絵を懐深くにしまい込むのは忘れるはずもない。
 確かにお琴の指摘は正しかった。小紅自身はまだ自覚はないけれど、彼女の己れの美貌を自覚しない美しさは無垢な汚れを知らない花のような感があった。例えるならば、野辺にひそやかにひらいた純白の野菊のような。

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