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カラダからはじまった愛は

第5章 逢瀬

 「お前このごろボーッとしてるよな」
夫からのそんな言葉に、別に、と答える。

「まさか、会社で悪いことしてんじゃないだろうな!」
そんなわけないでしょ、と。

 時には急に展示場に会いにきた。

帰り時間になると、早く閉めて真直ぐ帰ってこい、今どこだ!と。

 今にはじまったことじゃないから、慣れてはいるけど、夫からの監視にいつもうんざりしていた。それだけ、愛されてるんでしよ、と、夫をいい人と思う他人からは言われていたけれど。

 喧嘩して何度も家を飛び出した。
車の中で一晩過ごしたり、漫画喫茶で過ごしたこともあった。
 夫の暴力がこわかったし、借金ばかりさせる夫から離れたかった。

 だけど、自営業の事務や経理を一切やっている私がいなくなったら、従業員や取引先に迷惑がかかると思ったし、自分の仕事もあるし、私が支えなかったら、私の身内にしている借金さえも返せなくなる…大丈夫だ、信じろ、そう言う。
信じるしか、ないんだろうな…
そう、あきらめていた。

 十三…置いていけない…

7歳になるオスのチワワの十三。
9歳になるメスのチワワのチメのお婿さんとして我が家にきたけど、チメが小さすぎて結ばれることは無理だった。
 
 もちろん、それでも構わないし、私にとっては十三は甘えん坊で可愛い癒し犬。

 だけど、夫は十三にひどく冷たかった。
ゲージから出すな、といい、十三がゲージから出たいとクーンクーンと寂しげに啼くと、うるさい!と叩いたり、バスケットに入れて風呂場に置き去りにしたり。私が十三を抱いて他の部屋で眠るのさえ、どなりつけられた。

 そんな十三を置いていけない。
 
 
 
  

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