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白虹(龍虹記外伝)~その後の道継と嘉瑛~

第2章 再会

 そのひと声をきっかけに、ついにここに白鳥の戦いが幕を上げた。
 しかしながら、戦局は必ずしもはかばかしくなかった。初めの中は長戸軍も大軍を前にして死力を尽くして奮闘し、そのあまりに凄まじい猛攻ぶりに敵方も怯む様子さえ見せていたのだが、やはり、戦力が違いすぎたのか、昼過ぎに始まった戦は二(ふた)刻(とき)ほど後、新たな展開を見せ始めた。
 数の上でははるかに木檜方に及ばない長戸方が次第にじりじりと押され始めたのである。味方の不利が明白になるにつれて、後方で戦局を見守っていた通継の貌には焦燥の色が濃くなり始めた。
 秋の陽が傾き、蜜色の夕陽が差し込み始める頃になると、最早、長戸軍の敗色は濃厚になった。空の西の端が茜色に染まり、緑の大草原の向こう―地平線に今日という日の終わりを告げる残照が輝いていた。
 まるで熟れた柿を彷彿とさせる禍々しいほどに色鮮やかな太陽が草原を朱(あけ)の色に染めている。いや、一面の草原が紅く染まっているのは、夕陽のせいではなく、味方の兵たちの骸から流れ出たおびただしい血のせいか。
 あそこにも、ここにも、兵の亡骸が倒れている。ある者は背中を深々と矢に射貫かれ、うつ伏せたまま事切れ、ある者はまた、カッと眼を見開いたまま断末魔の苦悶の表情そのままに仰向けて果てている。その者の全身は鮮血に濡れていた。既に乾き始めている血糊によって、額に落ちて乱れた髪が張りついている。
―あの者たちにも家族はいるだろうに。
 家では女房や子らが良人の、父の無事な帰りを一心に祈り、待ち侘びていることだろう。何が、〝死力を尽くせば、活路も開く〟だ。
 昨夜、重吾郎にはたいそうなことを言ったくせに、このザマ、体たらくは何だ。
 通継は今ほど、己れの大将としての無力さを思い知ったことはなかった。
 その時、前方から、這いつくばるように進んでくる一人の兵がいた。彼は息も絶え絶えに通継の許に辿り着くと、涙ながらに言上した。
「殿、小山田(おやまだ)邦正(くにまさ)さまが奮戦の甲斐なく、敢えなくご落命の由にござりまする!」
 雑兵らしい若者は言うだけ言うと、力尽きたように、その場に倒れ伏した。

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