Melty Life
第3章 春
だから群れを外れたところで、さしたる問題も悲劇もないのだ。
追いかけてくる眞雪を振りきって、あかりは中庭を飛び出した。
あてどなく足早に角を曲がっていくと、中央校舎の裏側に出た。
逃げ出してきた直前、顔も知らない下級生達が、あかりに関して議論していた。クラスメイトの名前も思い出しにくそうだった少女達は、人づてに知った他人の過去は記憶していた。
友人が多い。女子受けが良い。
眞雪達のあかりの評価は、的外れだと思う。
友人関係とは、利害の一致で成り立つものなんじゃないか。その関係が形崩れすると、例えば、あかりのように、教師に与える印象を下げるような風評が出回ったとすれば、友人関係を続けていても、不利益しかない。ともかや玲のように離れていく。
町内にいたあの女も、そうした人間のありのままの姿を露呈していた。あかりは彼女に利益をもたらしていた。彼女の性的な願望を、満たしていただけの利益を。
そんなことを考えていたら、眞雪と知香のいる場所に、いづらくなった。
彼女らに与えられるものはない。彼女らがどれだけあかりに優しくても、いつまで経っても、そこに返せるものはない。
水和のように、まっすぐになりたい。
…──それまでいた場所にいられなくなったとしたら、本当にいるべき場所に呼ばれているから。
先月の舞台での水和の声姿が、にわかに脳裏をよぎる。
水和は、相変わらずいかにも大人が子供に押しつけたがる類の、夢見がちな思想を彼女自身のものにしていた。陽の光のような彼女を客席から見上げていると、未来には希望しかない気がするし、胸の奥から光が湧き起こってくる。あかりには、水和を見ていられる立ち位置が、逃げ場だったのかも知れない。水和を逃げ場にしたくないのに。水和の影響を受けたあかりは、彼女に相応しい、明るいものを信じきっている存在に近づきたかった。