Melty Life
第3章 春
水和のように、まっすぐに。
なりたくても、彼女が自分とは別物であるところにも、愛している根拠がある。
水和を知る以前のあかりは、愛するという感覚さえ、求めないような人間だった。
「宮瀬じゃねぇか」
男の声が、喧嘩腰にあかりを呼んだ。とっくに変声期の過ぎた声は、威圧的で馴れ馴れしい。
警戒して辺りを見ると、三ヶ月ほど前、あかりに掴みかかろうとした上級生の姿があった。
「竹邑先輩……」
「お前に覚えられてても、嬉しかねぇな」
「…………」
「シケた面だな、おい。浮気相手にでもフラれたか」
「…………」
何のために、あかりに声をかけたのだ。
挨拶にしては、軽口が過ぎる。
浮気などしない。竹邑と同級にいる生徒達が、あかりに関して何か話しているところを聞いたのかも知れないが、水和に関しては後ろ暗いよそ見などしていない。
「っ……」
「おい!」
立ち去るより先に、視界がぼやけた。走り去る力も底をついていた。