Melty Life
第4章 崩壊
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文化祭の舞台の配役が決まった。
たった一度の台詞の披露からの投票は、同じく放課後一度きりで決着してしまう一発勝負だ。
一言ずつ、登場人物を演じて読んでいくだけなのに、本番並みにミスしにくい状況は、ことごとく水和の神経を削った。
「その割りに楽しそうだったね」
「投票中だってこと考えてばかりいたら、心がもたない……」
「お疲れ様。でも水和、チラッと見たら手が震えてて、笑いそうになっちゃった」
「あーっ、美菜さんいじわるぅ」
茜色差す教室で、配役発表、そして美菜梨が中心になって明日からのスケジュールの確認まで終えると、部員達は下校の準備にとりかかった。
三年生は、全員、キャストに決まった。最高学年には引退舞台となる文化祭に限って、下級生達が配慮して投票してくれるというのを聞いたことがある。それが本当か、歴代の高校三年生達はおそらく確かめられないで部を去っていったものだが、少なくとも水和が聞いていた限り、百伊も山下も、部長の美菜梨も、さっきの読みではひときわ板についていた役に当たっている。
三人とも同い年なのに、自分だけどこで遅れをとったのか。
この学年は全員中等部で入部したのに、あの頃から、水和には自分が積み重ねてきたものの手触りがない。チームワークの部活動で、虚しくなっても仕方ない。演劇は自分との戦いだ。周囲と比べても不毛なのは分かっていても、長台詞はいつでも不得手で、本番でも当たり前に震えている水和が、それでも六年も演劇を続けてこられたのは、つまり下手の横好きだ。