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Melty Life

第4章 崩壊


* * * * * * *

 五月の暮れ。

 中間テストの最終日、あかりは水和から呼び出しを受けた。


 当面の義務から解放された生徒達の撒き散らす明るい空気がそこら中を立ち込める中、校門へ急ぐと、水和は本当にそこにいた。

 ちゃんと顔を合わせたのは、新入生歓迎会の日以来だ。
 水和に答えを催促しているような態度をとりたくなかった。小野田との関係が漏洩したような一件もあって、あかりから会いに行くのに気後れしていただけに、もうまもなく目の先にいる水和の待ち合わせ相手が自分だと思えば、あかりの感動は並大抵のものではない。


「水和先輩」

「あかりちゃん!」


 初夏の日差しを受けた水和は、象牙のように煌びやかで白かった。大きな双眸は透き通るようなブルーグレーで、今日は三つ編みにした毛先の色に限りなく近い。微笑みを浮かべた潤沢が、あかりを柔らかに捕らえて射抜く。


「急にごめんね、一緒に帰ってみたくて。部活ないの、今日くらいだし」

「嬉しかったです。まさか会えるなんて」

「学校同じなんだから、会えるよぉ」


 伸ばされてきた水和の手に、あかりのそれが吸い寄せられる。指と指とを組み繋ぐと、水和がやんわり握り返してくれた。


 久し振りに、いや、ここまで長く触れたのは初めての水和の手は、見た目より遥かに柔らかい。きっと骨まで美しい宝石で出来ている。甘い薄肉の這った指の質感に、くらくらする。

 何か会話しなければ。

 思考は働きたがるのに、快楽と呼ぶには幼いくすぐったさが胸を満たして、この苦しみに浸っていたいとも思う。


「あかりちゃんとね、LINEよくしてたでしょ。楽しかったから、もっと話したくなったんだ」

「そうだったんですか……」

「あのね、更に急で、悪いんだけど。今日、このあと時間ある?」


 もちろん、時間はある。


 あかりは二つ返事で頷きながら、予想もしていなかった幸運に、いっそ恐怖を覚えていた。

 このところ、水和に関して何か努力した覚えはない。それなのに何がどう報われた。

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