Melty Life
第4章 崩壊
* * * * * * *
千里が父親の私室を訪ねると、耳に当てたスマートフォンに何かまくし立てながら、彼は本棚を漁っていた。書類やUSBが、寝床に散らばっている。
息子を呼び出しておきながら、本人は、おそらく次の現場の準備に一分一秒を争っている。
扉の音で気づいたのか、父親はちらと千里を見ると、通話を終えた。
「俺に何か話が?」
「お帰り。大した話ではないよ。試験はどうだったかね」
「一位は期待出来るはず」
千里の生まれ育った家庭の場合、謙遜は却って角が立つ原因になることがある。
まだ千里が幼かった頃、つまり世の中ではあらゆる場面において勘定や要領が必要になるということを学んでもいなかった時分、同じようにこの父親に、試験の出来を訊かれたことがあった。千里は期待に外れた結果になって、両親を落胆させたくなかったために、予想より下回った手ごたえを述べた。父親は千里を酷く叱った。満点もとれないと分かる程度の努力しかしないで、よく恥ずかしいとも思わないな。
ただし今日は、業務多端な中わざわざ父親が千里を呼びつけたのは、中間テストの具合を確かめるためではない。
千里が予想だにしていなかった、ゆうやに関する苦言である。