Melty Life
第4章 崩壊
「話したくないことが、他校の生徒とのトラブルか」
「違う、って……」
「本人がそう言ってるんだろう。お前は世間知らずでお人好しなんだ。頭を使え」
それまでの千里なら、ここでそろそろ引き下がる。
千里は適当にあしらって、物分かりの良い子供らしく建前だけでも承服して、ゆうやとは隠れて交流していけば良い。今日までそうであったように。
しかし、つい最近の隼生の話が千里の脳裏を掠めていった。
「ごめんなさい、お父さん。俺、本当に世間知らずな子供だから……」
「分かったか。それなら良い。もう部屋に帰──」
「お父さんが話しにくいことは家族にも、俺にも話してくれないから、俺は人って皆そういうものだと思って、余計に考えるようになっていたよ。お父さんだって俺の気持ちを考えて、話してくれなかったのに」
「何の話だ」
優秀な経歴の持ち主で、エリートの代名詞であるこの父親は、風貌からして非の打ちどころがない。ところが母親の理花を彼が歪めたのだとすれば、千里の目前に立つ男は、清廉潔白の外衣で塗り固めた、ただの狡く醜いだけの大人ということになる。狡く醜い大人の身勝手が母親という人間の理性を壊して、息子の自由まで奪った。
「お父さん、昔、会社の総務部に好きな人がいたって本当?本当は俺が一人っ子じゃないって」
高圧的な父親が、にわかに顔色を変えた。
いくら完璧な人間でも、癖はある。親しくあればあるほど、比較的その癖を掴む機会を得やすい。
そして千里の父親は、自信を持って否定出来る疑問を投げかけられた時、間髪入れずに相手の落ち度を徹底的に攻撃する。
誰に訊いた、と、父親は低く続けただけだった。