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Melty Life

第4章 崩壊


* * * * * * *

 まもなく日付が変わろうとしている深夜、あかりは浴室にいた。

 母親は帰省していて不在だ。咲穂はとっくに私室にこもった。父親ももう就寝している頃だ。

 世界が無音に包まれた中、入浴剤のミルクと石鹸の仄かな匂いを肺いっぱいに吸い込んで、人肌よりやや高温の湯船に一糸まとわぬ裸体を浸からせていると、無性に落ち着く。やけに頭は冴え渡る。


 水和の唇に触れた。

 自分は水和にとってどういう存在か。日ごとに曖昧さを増す距離が、もどかしくて不安だった。一度は伝えた想いさえ、じきに風化するんじゃないか。

 焦りがあかりの深層心理で渦巻いていたところに、あかりの知らない少年の名前が、水和の口から出たからだ。水和の片時を独占しながら、何も言えず何も出来ない自分自身への叱責でもあった。水和にしてみれば、きっと迷惑極まりない。


 水和はあかりを知ろうとしてくれていた。しかしあかりの本心は、欲望だけが濾過されていく。純粋な水和との温度差が、彼女への引け目に転移する。

 愛が美しくて他人本意なものだと、誰が言い出したのだ。恋が愛に移り変わって、後戻り出来なくなればなるほど、醜く独善的になる。


 水和に捧げられるものなど何もないのに、ただ求めないではいられない。


 あかりが乱脈な独白に終止符を打つと、水和が腕を回してきた。彼女は結局、駅まで送り届けてくれた。
 人もまばらだった改札横で、あかりは数秒、水和の心音を胸に感じた。低体温で肉薄の水和の腕の中は、見かけに反して安心出来た。


 …──もう少し、待ってて。


 水和の熱いささめきが、あかりの鼓膜を震わした。


 …──あかりちゃんの気持ちに応えられない理由は、ないの。でも、もう少し待ってて。



 あの言葉が、少しでも水和の本心を含んでいたとする。あかりはまた一縷の希望に縋ってしまう。

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