Melty Life
第4章 崩壊
あかりはここまで悪酔いした父親を知らない。母親に罵詈雑言まで吐いたことは、今日まで一度もなかった。
「お前はなぁ、一生俺達に這いつくばってるしかないんだ。お母さんのようなしくじりはするなよ、どうせ股を開くなら、恥は晒すな」
「お父さん、とりあえず水──」
「親切なお父さんが教えてやるんだよぉ、お前は仮にもあの女の娘だ、純粋そうな顔をして、どんな淫売になるんだろうなぁ!金回りの良い男にしろよぉ!」
「っ…………」
父親が何の話をしているのか、分からない。
あかりはスマートフォンだけ握って、玄関に駆け出した。
咲穂は起こさなくて大丈夫だろう。変貌した父親は、変貌していないのかも知れない。この男の性欲は、愛慾とは別のところにある。ただあかりを虐げたいだけ、憎みたいだけだ。
この男の言うことには一理ある。
あかりには一生顔を上げることが出来ない。望まれもしないでこの世に産み落とされてきて、愛されてもいないで自我を得た。愛されることもなかったあかりが、他人を愛して、親にも得られなかったものを他人から得られるはずがない。
それなのに、何故、愛おしさは増すばかりなの。彼女を追い求めてしまう。
生ぬるい風のたなびく初夏の夜道に飛び出した。
部屋着だけの格好は、肌寒い。心細さと、引き返す気にもなれないで朝までの時間を過ごす場所にもあてがなく、うっかり眞雪に連絡した。タクシー代は親に出させるから、来て。すぐに返信があった。電車でも最短四十分かかる眞雪の家は、終電もなくなった今、徒歩では彼女の睡眠時間を削る。