Melty Life
第4章 崩壊
娘の軽口に母親は唇を尖らせた。
当たり前に見える日常だ。事実、当たり前にあるはずの、憎しみという感情とは無縁なのだろう家族。
家族想いの男が危険を犯してまで仕上げた献立は、美味しかった。オリーブオイルが遠くに香るピーマンと人参の炒め物は、シンプルなのに味覚にしみる。鰹節というアクセントが、胸の迫るほど温かかった。
学校に二人分の連絡を入れて、家を出た。帰路に近づくにつれて、あかりの足どりは重みを増す。
父親はもう家を出ている時刻だ。それでも万が一の可能性を考えると、帰り着きたくないと思う。
酒で人格が変わるというのは、大人には稀にあるというが、あれこそ彼の素顔だったのではないか。母親と咲穂を溺愛している父親が、自分の配偶者を罵倒までした。
道中、眞雪はとりとめない話題を持ち出してきては、無邪気に表情を変えていた。
あかりに付き添うと言って聞かなかった眞雪は、母親の小言も茶目っけたっぷりにかわしていた。明日からは遅刻しないから、と。今も彼女は、とっくに一時間目が始まっている頃なのに、のんびりと散歩でもしている顔だ。
「いっそ今夜も泊まらない?お母さん帰ってきたって、どうせ頼りにならないでしょ」
「眞雪、たまに容赦ないよね」
「私はあかり至上主義なの。何だろね、あかりの家族、実はあかりが綺麗だから嫉妬してるとか」
「家族に嫉妬なんて聞いたことない。大丈夫だよ。まぁ心配だから、お父さんにはあまりお酒飲まさないように言っとく」
「うん。……」