Melty Life
第4章 崩壊
先日、千里は初めて父親に反撥した。
十六年、或いは十七年前の彼の過失を暴こうとした息子に、刹那顔色を変えた父親は、結局のところ能面を張りつけて、ことの真相をはぐらかした。
子供が余計な詮索をするな、くだらない興味を持つ暇があるなら勉学に励め。
そして隼生に関しても、千里は最近、不審に思っているところがある。
「おじいちゃん」
「何かの。二時間目が始まるぞ。お前の遅刻まで、先生が心配されることになるんじゃないか」
「うん、……」
どうして及第点に達しなかった生徒の入学を認めたか。
単刀直入に訊ねるのは、容易い。容易くても踏みとどまる。
隼生にまで騙られたくない。
「何でもない。またお茶でも飲みに行くよ。週末、ケーキ用意しておいて」
「ほっほ。待ってるぞ。ああ、そうじゃ。この間、花崎水和さんを見かけたぞ。可愛いお嬢さんじゃないか」
「そう思う?はは、可愛いし、俺が好きなのはそこだけじゃないんだ」
「とは?」
「自由で、強い。俺より大きな翼を持ってる。可愛い女の子なんかじゃないんだよ、花崎さんは」
「ほほう」
「なんて、今のはキザだったかな」
頰に手のひらを当てて、千里は後ろ手にドアノブを握った。
本当にそろそろ教室に戻らなければ、移動時間が終わる。
水和の顔は毎日見ている。彼女を話題に出すのは今が初めてでもないのに、いつまでも慣れない。水和の名前を反芻して、水和の話をするだけで、頬が熱くなる。胸の発火が千里を恥ずかしいほど紅潮させる。
「良いのう、若いのは。じゃあな、千里。花崎さんに宜しくな」