
Melty Life
第4章 崩壊
「優しかったんだ、驚いた。あいつの親はあいつが帰ると笑って迎えに出てきてさ、俺みてぇなヤツが行っても、娘と仲良くしてくれて有り難うって、感謝するんだ。あいつの腕にすり傷が出来てたくらいで、学校で何かあったのかって、心配する」
「小学生くらいの子供なら、まだ過保護な親御さんが大抵だしね」
「あいつん家は、特にそうだったんじゃねぇかな。そうだよな。大事な一人娘だ。俺はあいつの好きだったもので溢れ返ってた部屋や、親に馳走になった飯の美味さに、温けぇモンってこういうことを言うんだなって……癒されてたぜ」
たった六、七年遡っただけの遠い日。
ゆうやが少女と過ごした日々は、夢同然だった。少女のまとっていた愛は、あの頃のゆうやにとって、さしあたりとまり木だった。
少女は、水和だ。
淡海ヶ藤で再会した水和は、あの頃に比べて変わっていた。
それが尚更、ゆうやの光になった。
ゆうやがますます落ちぶれていった七年間、水和は前進し続けていたのだ。それでもゆうやは忘れなかった。水和が温かかったこと、水和の家庭も温かかったこと。ゆうやにはないものを持つ水和を、今も昔も求めないではいられない。
「俺はあいつにとって、初対面だよ。お前と同じ。お前の方が有利だ。家も先生受けも、しっかりしてる」
「しっかり、ねぇ……」
「そういうヤツが勝ち組になるってことくらい、俺も分かってる」
千里が厳しい顔をした。何度この話をすれば気が済むのだと、ゆうやを叱咤する。
自身の恵まれた環境に、千里は全く自覚がない。ゆうやのような人間が、どれだけ誰かを幸福にすることが困難かを、この世間知らずは知らない。
水和は戦利品ではない。
ゆうやが千里の説教に頷ける箇所は、そこだけだ。水和は誰のものでもない。しかし少なくともゆうややあかりより、千里が相応しい。
だからと言って怠慢になるつもりはない。水和が自身を変えたように、ゆうやも彼女に憧れる以上、その生き方に啓発される。
