
Melty Life
第4章 崩壊
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雑巾水が、帰宅直後のあかりを襲った。
一日ぶりの母親が、娘を見るなりバケツを振り上げたのだ。
「どこ行ってたの」
凄みを含んだ金切り声は、親心が紐づいた、然るべきものかも知れない。何せ家を飛び出したのは、おそろしく深夜だ。
なけなしの期待があかりの脳裏を掠めたのは、多分、一秒にも満たなかった。
ヒステリックに叫ぶ母親は、父親と咲穂が今朝支度に手間取ったのはあかりの不在のせいだ、そう嘆き出したからだ。
汚水でずぶ濡れになった制服が身体に貼りつく。カビや埃の悪臭は等閑視して、あかりは下着の透けた胸元を腕に隠す。かたちだけでも謝罪した。
「謝れって言ってるんじゃないの、お父さんと咲穂を放ってどんな用があったの」
あんな詳細を話して、母親が傷つかないはずない。
あかりがたゆたっていると、玄関の方から音がした。
父親だ。姿を確かめるまでに察知したのは、ともすれば寒気があかりの肌をそばだたせたからだ。
「ただいまー。帰っていたのか、お義母さんは元気だったか」
「お陰様で。ところで貴方が連絡くれた今朝のこと、今あかりに訊いていたところよ。二人ともご飯もアイロンがけも、困ったでしょ」
父親に、昨夜の男の気色はない。円満な家庭に似合う優良な相好を崩して、あかりが家を抜け出したことと、まるで自分は無関係だと言わんばかりに受け答えして、今朝は一切の家事が出来ない咲穂の分まで自分が奮励した一部終始を、配偶者に報告している。
あかりはこの父親を直視出来ない。その目が薄暗いからだ。あかりを瞥見した父親の顔は、母親に向けるのとは雲泥の差がある。
