
Melty Life
第4章 崩壊
「手伝えなくてごめん、昨夜のことビックリしちゃって……友達の家に行ってたの」
口早に話を打ち切って、あかりはリビングを離れようとする。
父親の声が、一秒でも早く部屋に戻りたいあかりを呼び止めた。
彼は泥酔を忘れていた。ゴミ箱から発見されたビール缶から、母親も飲んだのは貴方だろうと配偶者に教えたが、それが引き起こした父娘の確執に関しては、その程度で父親を見捨てる冷たい娘だと言ってあかりをなじった。
「お父さんだって疲れてるの!お酒くらい飲むわ!そんなことで逃げ出すなんて、家族のこと全然考えてないわね!」
「本当に友達のところへ行ってたのか?あんな時間に……男ん家にでも行ってたんだったら、いっそ殺されてでもいれば良かったんだ。お前のような人でなしはな!」
「私達が嫌いなら、貴女なんか帰ってこなくても良いのよ」
「ああ、中途半端に居座ってるから鬱陶しいんだ」
「ウチの恥だわ、お前なんか死ねーーー!!」
帰って来るな、帰って来るな、と、母親は狂ったように繰り返して、あかりの襟を掴み上げた。
視界がぐらりと揺らいだ。
母親のねじ上げたあかりの身体が崩れ落ちる。力加減ない足蹴が、肩や背中を攻撃する。
乾ききらない制服が靴下に染みたのか、苛立ちに輪がかかった母親は、実の娘を溝鼠呼ばわりしながら、内臓にまで響くような殴打を繰り出す。
「ふっ……ん…っ、く、ぅ……」
いつから痛覚が鈍さを増していったのだろう。
何故、人は、ここまで誰かを憎めるのだろう。
意識の遠のくような頭の片隅でそんなことを思いながら、あかりの罵声を受ける聴覚は、極めて落ち着いていた。
父親の足裏が、あかりの手の甲を踏んで床にすりつける。
