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Melty Life

第4章 崩壊



「何でだよ……」


「生意気な真似をするからだ」


 しゃがれた男の声が、キィン、とゆうやの鼓膜をつねった。

 開け放っていた扉の枠に、同居している男がいた。
 男、つまり父親は、茫然としたゆうやに些少の情も持たない目つきを向けていた。


 最初で最後だったかも知れない、水和との思い出のかたちだったのに。愛する少女と共に笑っていた、写真一枚持っていることが、罪なのか。

 ゆうやのはらわたを煮えくり返す、何ら間違っていないはずの反感。それを口にもしないゆうやは、世間からすれば、自分の意思も押し込めたまま不満を募らせるだけの愚か者だろう。しかし父親への恐怖がゆうやを沈黙させる。老いぼれかけた、一見非力なこの無職の中年男を前にすると、体が動かなくなる。


「その小娘がどこの誰かは知らんが、ゆうや、お前に楽しみや幸福などない。お前は何をしても異物だ、奴隷だ。権利などない!お前は俺に従うために生かしてやっているだけだ!」

「…………」

「勉強しようがどう足掻こうがな、お前は一生底辺だ!女とちゃらちゃら遊ばせるために、住まわせてやってきたんじゃない。忘れるな!」

「は、い……」

「だったらその不満な顔をやめろ。そんな紙屑一枚で、被害者ヅラしてんじゃねぇぞゴラぁ!!」



 ガンッ…………


 肩に覚えた鈍い痛みに小さく呻く。

 目尻を吊り上げた父親の顔が間近に迫る。

 けたたましい落下音に顔をしかめて、ゆうやは自分が本棚に殴りつけられたのだと理解する。間髪入れず、父親の拳がゆうやをサンドバッグにする。

 
 思い出を抱えることも許されない。悲しむ暇もない。


 いつまでこんな痛みを味わえば良い?

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