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Melty Life

第4章 崩壊


* * * * * * *

 雨が降っていた。

 休日、それも外に出る予定を控えたタイミングで天気が崩れると、まるで自分が天に嫌われてでもいる気分になることがある。実際はその地域一帯にいる全ての住民が雨に降られるのに、そこまでの被害妄想が広がるほど気分が滅入ると、ある意味では自意識過剰になれるのかも知れない。

 とすれば今の水和は、とりわけ意識が高くないことになる。

 土曜日に雨が降ったからと言って鬱陶しくはならないし、部活のために登校してきた道中、足元が悪かったくらいで自分の存在価値まで疑わない。地面を打つ規則正しい雨音はいっそ耳に心地好く、駅と学校の中間辺りで合流した百伊達と傘の中で盛り上がった話の方が、よほど水和の感情を動かした。


「おはようございます」

「おはようございまーす」


 次々と慣れ親しんだ顔触れが、活動場所として借りている教室に集まってくる。

 女子部員の割合が高い演劇部は、雨で空気が湿っているせいもあって、仄かな花の匂いが深い。彼女達は天候にぼやきながら道中の雑談の続きに笑ったり、傘をさしそこねたのか開き直った具合にびしょ濡れになったりしている。発声などの基礎練習を始める部員も中にはいる。

 そんな彼女達を横目に、水和は永遠の安寧の中にでもいるような、穏やかな胸裏を噛み締めていた。

 ここには水和を傷つけるような他人はいない。信頼出来る仲間達に囲まれて、六年間の思春期を投球してきた演劇が出来る。今が最も幸福ではないのかとさえ思う。


「そうだ、私、昼休み生徒会に行くんだ。水和も行かない?」


 市内に出来た新しい店について話していた時、にわかに話題を切り替えたのは、芦野はの(あしのはの)だ。
 部長である彼女は事務的な用事で度々生徒会室を訪ねることがあるが、水和を誘ったのは初めてだ。

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