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Melty Life

第4章 崩壊



 束の間の時間を与えられた祖父と孫は、他愛のない会話を交わした。

 場所こそ違っても、元々、今日はこんな時間を期待していた。

 水和の話題も出た。理事長のくせに、隼生は水和の身なりには一切言及しないで、こんなところまで付き添ってくれる彼女は友人想いだの相変わらず別嬪な生徒だの評価して、まるで友人同士の会話のように、おりふし千里をからかった。


「ちと、そそっかしいお嬢さんのようだがな」

「はは、そうだね。定期入れ……。あ、LINEすれば良かった」

「今日の分は、飯田さんが何とかして下さるだろう。優秀な家政婦さんじゃ、お前が世話になった生徒さんにくらい、交通費を貸してくれるじゃろう」


 水和の忘れていったパスケースが、一面の白の中で、現実的な明るさを放っていた。律儀な彼女は、相部屋でもないのにスマートフォンの電源を落としたのだが、その際、バッグの上部に乗っかっていた持ち物を一端出した。そのまま隼生との会話に集中して、荷物を仕舞い直す時、確認が疎かになったのだ。


「そうじゃ、千里」


 にわかに隼生の声の調子が一変した。


「お前にも、話しておくべきかも知れん」


 老いには抗えない。次は過労では済まないかも知れない。


 目尻に皺を刻んで、ただ話を切り出す理由として、まるで他人事の冗談をこじつける調子で前置きした隼生に、千里は笑い返せない。


「まぁ、年寄りの懺悔を聞いてくれ。お前のお父さんの無責任な行動のために、来須の家が迷惑をかけてしまった人達の話を、いつまでもお前から隠して、偉そうに年長者面をしているわけにはいかん」

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