Melty Life
第4章 崩壊
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夜に身が竦むようになったのは、きっと中間考査が終わった頃から。後ろ暗い、人間につきまとう醜い業まで飲み尽くしてしまうような晦冥は、痛みだけ残してよこしまな爪痕は遮蔽する。
ともすればもっと前から、月を昇らせる黒い帳は、あかりを見放してきたのかも知れない。
今となっては、幼くて明確な記憶はないにしても、両親が初めてあかりに手を上げたのも夜だった。物心ついた妹が既に彼らの偏愛を自覚していて、あかりへ向ける感情が侮蔑の類と知った時も、こうして世界が眠りに誘い込まれかけていた。近隣に越してきた親切な女が、同情の見返りを求めてきたあの日も。
手を伸ばしても触れられない頭上の魔物は、実は音も立てずに今も徐々に降りてきているのではないか。
荒唐無稽な強迫観念があかりの無意識を動かしたのか、来た道に比べて随分、帰路は遠回りした。明るい道を求める内に、住宅街とはほぼ反対側に出ていたのだ。小路で繋がっているためまるきり反対方向ではないにせよ、眞雪達と手を振り合ってから、本来なら家に着いているだけの時間はとっくに過ぎている。
表通りでも侘しいこの一帯に、こんな時間に人影があるのは珍しい。しかも角を曲がったあかりが目先に捉えたのは、淡海ヶ藤の制服を着た、どこか華のある二人組だ。
私服のあかりが通り過ぎたところで、相手も気づかないだろう。しかし遠目に見るシルエットは、どきりとするほど心当たりがあった。
少年の方はともかく、少女の方をあかりは見間違えない。仮に厚い鉄壁がここに立ちはだかっていたとしても、風が運んでくる甘切ない気配から、彼女を彼女と認識出来た。