Melty Life
第4章 崩壊
「聞こえちゃった、心配してくれているのは来須くんの方じゃない」
頓と角を持たないソプラノは、寂漠とした闇にさえかき消えそうにまろやかなのに、声の主が内包しているものにも通じるたゆまない芯が、あかりにまでその音色を伝えてきた。おどけたニュアンスの水和の声。
「来須くんって、学校のこと、本当によく話すんだね。おじい様に」
「花崎さん、もしかして……」
ためらいを含みながらも着実に来須への距離を詰めていく水和の声に引き換え、来須はたじろいでいた。まずい秘密が露見した時のような、それでいて秘密が知られるのを期待している、相手の方から暴いてくるのを待つ風だ。
「来須くん。私達、似てるかも。来須くんみたいな非の打ちどころのない人に、こんなこと言っちゃ失礼だけど、返させてもらう返事次第では、来須くんと私の関係は対等じゃなくちゃいけないから、言って良い?」
「俺は特別じゃない。花崎さんみたいに輝いている人が僕に共通点を感じてくれることがあるなら、光栄だ」
「冗談でしょ。来須くんは、昔の私を知ってるはずだよ。暗くて内気で、同い年の子と会話もちゃんと出来なくて。人の顔色ばかり気にしてる。今だって」
「それは、……」