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Melty Life

第5章 本音



「こんなに好きだったなんて、自分でも気づきませんでした。水和先輩が誰かと特別な関係になるくらいなら、あたしがって。あの時まで高望みするつもりなかったのに」

「好きで同じ学校まで受けたんでしょ。私は予想ついていた。その水和さんって子、よほどプライドが高いのね。理想が高いのかしら……」

「その逆だと思います」

「聞くからにモテモテじゃない。告白して、未だ保留でしょ。あかりちゃんなら、もし男の子専門の女の子でも大体落ちると思うのよ」

「それ、傷つきます」

「それだけ美しいって言いたいの」


 小野田が脚を組み直して、ソーサーごとカップを傾けた。

 あかりも熱いハーブティーを口に運ぶ。


 蜜色の薄明かりをまとった小野田の匂い立つような曲線は、ラフな部屋着にくるまれていても扇情的だ。カモミールに寄り添った、まるでこのラベンダーの香りに似ている。安らかな眠りに誘われるようで、落ちていく意識の底には、もしかすれば劣情を煽り立てられるほどの激烈なものがあるかも知れない。


「小野田さんみたいな人にばかり出会ってきてたら、いつまでも調子乗ってたかも。あたし」

「そう?」

「水和先輩に会うまでは、人並みに自信はありました。自分に」

「過去形にすることないじゃない」

「仕方ないです。何人の女の子と仲良くなれても、水和先輩のものになれなくちゃ、あたしは完璧とは言えない。何もないのと同じだし、幸せなんか似合わないんだなって、分かってるから」


 来須のように、人望も厚く将来も有望な人間が、きっと水和に相応しいのだ。水和自身は彼女自身の魅力に無頓着、謙虚で素朴な人となりでも、あかりは彼女の幸福を願う。幸福を願うからには、それだけの力を有する人間に守られていて欲しい。


 カップの底が覗いたところで、あかりは小野田に口づけをねだった。彼女の世辞が本心から来るものとすれば、誰にも打ち明けられない寂しさを、彼女が紛らわせてくれないか。

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