Melty Life
第5章 本音
小野田は逡巡もなくその要求を受け入れた。
胡桃にムスクを巻いたみたいな小野田の匂いが、肺を満たす。月日の数だけ重なっていった花びらが剥がれていくようにして、確かに覚えのある柔らかみに、あかりの記憶が共鳴する。
乾燥の季節の名残りを残した手の甲をくすぐって、さっきから何度盗み見たか分からない太ももに指先を這わせると、僅かに肺の動きを活発にさせた小野田が二度目のキスを押しつけてきた。三度、四度、と、歯止めをなくした唇同士の触れ合いが、情欲を訴える撫で合いに移ろう。
「あぁ……あ、はぁっ……んん」
「小野田さん……小野田さん……」
ぐちゅ、ちゅるっ、…………。
野性的な水音を水音に濡らしながら、あかりは理性による胸の内を吐き出す。
孤独になっても構わないのに、一人は寂しい。水和を諦めなければいけないのなら他の誰も欲しくないのに、空っぽになっていきそうな自分を繋ぎとめてくれるだけの誰かに側にいて欲しい。
一点の瑕疵もないまごころは、あり得ない。小野田のあかりに対する同情が、きっと世間からすれば綺麗と言えないのと同様、あかりの水和への誠心誠意も、澄みきってばかりと限らない。
かつてあかりの境遇につけ込んで、そこに性的興奮を見出していた。小野田は、あの日々と同様、希望に続きうるあらゆる可能性を否定して、幸福に背こうと躍起になるあかりに彼女自身の蜜部を濡らして、自らしどけない格好になった。
「そう、はぁ……そうよ……幸せなんて不安定なもの、貴女に似合うはずないじゃない……私の玩具になっていれば良い……」
「小野田さん……やっぱ綺麗……いつもあたしを揺るがせるのに、何で……離れられない……」
「それで良い……良いの……あっ──…ぁん、もっと、もっと来てぇ……」