Melty Life
第5章 本音
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フリルにレースにリボンにギャザー、ツインテールや巻き髪が圧倒的に合う感じの、百人いれば九十五人は「可愛い」と形容するだろうファッションが好きだった。
洋服の柄はドットやチェック、花柄、動物(特にウサギ)、無地なら淡色。表面が多角形にカットされた宝石を象ったボタンが取り入れられていたら、わくわくした。大きなリボンを更に華やかに見せるために縫いつけられたパールのぼんやりした艶を見ていると、気持ちが明るむ。
小学生低学年に上がる頃、子供は自我を強め始める。それでも多くの選択事項はまだ親に主導権があって、水和も例にもれなかったが、身につけるものだけは断固として譲れないところがあった。幸い祖母も母親も古い考え方の人間で、十にも満たない年端の女児が愛らしいものを欲しがれば、固定概念の「女の子らしさ」に賛成しても反対する理由がなかった。
ゆめかわいい、ロリィタ、姫系。ひとくくりに可愛い装いと言っても、ざっくりと定義が分かれるのはあとに知ったことで、初めは出先やテレビで見かけて憧れたのがきっかけだった。フェミニンでヒロインのようなイメージを持つ一方で、似た格好をしたさながら複製の人間が溢れる中で異彩を放つ、それでも尚、周囲に合わせるつもりは毛頭ないらしい表情を凛と前に向けた彼女達は、とても自立した、幼心ながらあるべき大人に見えたのだ。
もちろん、小学生低学年の女子がそうした彼女達を倣っても、愛らしさにとどまるだけだ。
あの頃の水和は大人受けが良かった。背伸びしたい以前に、単純に好きなものを自由に身につけることを許容されていた日々は、水和にとっても好ましかった。
ただし、同世代の子供受けは最悪と言って良かった。
生を受けてまもない子供は大人以上に敏感で、それだけ残酷でもある。水和のような異分子は、残酷性の餌食として最適だった。彼らは自分達とは異なる水和の見た目を嗤い、あらゆる推測を持ち出しては異端児のいる理由を議論して、口汚い言葉を本人に浴びせた。ませた女子などは水和の服装を男受け狙いと誤謬したし、男子は奇天烈なアニメキャラクターを引き合いに出して水和をからかった。