Melty Life
第1章 告白
お人好し。
少女からの評価は、ひょっとすると少年の耳には痛かったかも知れない。
本人に他意はない。
ただ、甘える術も覚えないで十七年を過ごした少女が今更それをしろと強いられるのは、無理難題だ。まして物をねだるなど、誕生日という名目があってもハードルが高い。
「なぁ」
適当な店に入っていった少年は、後方に少女が付いてきていることを確認して、口を開いた。何かを思い出した口ぶりだった。
「ごめんな」
「何が」
「彼女の、こと」
「…………」
「本当、ごめんな」
「…………」
「俺は◯◯も、心から大事にしたい。あの人と同じくらい、本当だ。今まで何もしてやれなかった分、最低な兄だった分、埋め合わせをさせてくれ」
だったら死ね、と、少女は思う。実際にそう思ったかは別として、目に僅かな敵意を浮かべて、彼女は兄と認めて日の浅い男を見上げた。
口先だけの善意であれば、誰にでも繕える。自身の何一つ削りもしないで与えられる厚意であれば、出逢ったばかりの他人が相手でも苦ではないだろう。自分の人間性を格上げして、しかも、なくすものがない。
隣を歩く、人好きのする顔の男は、まさしくそういう人種だ。ぬくぬくとした場所にいて、彼自身は本当に大事なものまで手離すつもりもない。贖罪など口先だけだ。もとより犯した罪もない。
…──そっか、やはり自分はこの男を憎んでいる。憎まないでは生きていけない。
濃いまつ毛が縁どる目許、整った扁桃肩の中で煌めく双眸の更に奥、黒曜石の潤みを湛えた少女の二つの瞳孔が、ふっと、熱をなくした。