Melty Life
第1章 告白
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甘い匂いが泳いでいた。
カカオや糖分だけではない。
チョコレートにこもった想い。
バレンタインデーのルールは、昨今、変動している。
もともと製菓会社が仕組んだ愛の告白の特売日、いつの間にか友チョコだの感謝チョコだのを贈り合う行事になって、組織によっては年賀状に並ぶレベルで重要視されている。大人の世界では、懇ろな上司や同僚、後輩へのチョコレートの配布が、暗黙に義務づけられることもあるらしい。
学校も、この日は可愛い校則違反者が後を絶えない。生徒らは大人達の目を盗んでお菓子を持ち込む。見つかっても軽罪で済むのは知っているし、教師も見て見ぬ振りをしている。と言うより、プライベートでチョコレートをもらえる望みの薄い中年男性教師などは、むしろ女生徒からの感謝チョコを密かに楽しみにしていたりもするんじゃないか。
ローマ司祭、セント・ヴァレンティヌスの記念日。
本来の行事とは随分と歪曲したバレンタインデーを、水和(みわ)も満喫するつもりでいた。
抜け出してきた教室には、学校指定の鞄の他に、昨夜日付変更線を越える時刻まで起きて作ったミニカップのチョコレートの小分けが大量に詰まったトートバッグが残してある。