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Melty Life

第5章 本音



* * * * * * *

 あかりが帰ると、朝礼のあと呼び出された母親に付き添われて早退したらしい咲穂は、今朝より落ち着いたにしても憔悴しきっていた。いつもより早く退社してきた父親も、既に状況を把握していた。


 リビングは通夜が始まるのではないかというくらいしんとしていて、時計の秒針の音だけがしめやかに響く。


 突如、荒々しい音が立った。


「お前が何かしたんだろ!!」

「あぅっ」

「言え!!どんな手で咲穂を陥れた!!」

「あぁぁぁぁ咲穂がぁぁぁ……っ。あの子の人生、どう償ってくれるのよーーー!!」



「く……うぅっ、あっっ」



 頬を打たれたはずみで膝をついたあかりに母親が馬乗りになり、背後から首に指を回した。長い爪が喉に食い込む。母親は咲穂の不運を嘆きながら、あかりの嗚咽も耳に入らない憤慨ぶりで、義理の娘の額を床に叩きつける。

 鈍い音がじかに頭に響く度、あかりはくぐもりがちな悲鳴をこぼす。


 次第に両親が何を叫んで喚いているか、分からなくなる。母親の指に抵抗しかけたあかりの手も父親に捕らえられた以上、呼吸が薄くなるのをどうにも出来ない。意識も薄れていって、背中にかかった母親の重みで先週の傷口が開くのをぼんやり意識するのに、疼痛より気持ち悪さが先に立つ。


「あんたなんか生かすんじゃなかった!あんたなんかっ……!!」


「やっ、あぁ……っ」


 首にこもった力が僅かに緩む隙に息を継ぎながら、辛うじて意識を保っていると、玄関口からチャイムが鳴った。


「ちっ、こっちはそれどころじゃない」

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