Melty Life
第5章 本音
顔を知っていた程度の淡海ヶ藤の理事長が、顔を上げたあかりの視線の先に現れたのは、まもなくのことだ。
ずかずかと敷居を跨いできた白髪混じりの男を追いかけてきた父親は、日頃体裁ばかり気にしている彼からは想像つかないほど、いきり立っている。
解放されたあかりは、目眩に引きずられるようにしてその場に崩れ落ちたまま、父親と来須隼生を交互に見遣る。
「来須、やってくれたな。咲穂をあんな目に遭わせるとは、覚悟は出来ているだろうな?!」
「もう黙ってはいられません!私達を馬鹿にして……!貴方達のしたことは、然るべきところへ相談させていただきます!」
「やるならやれ!どのツラ下げて、わしにそんな大口を叩いておる!」
穏やかな人相の老いた男は、毅然と二人を戒めた。
新たな足音に首を回すと、理事長の孫息子の姿も見えた。
千里は隼生の側に立ち止まり、彼に何かしらの感謝を述べた。そしてあかりの両親達に向き直る。
「ええ、覚悟は出来ています。父の過失は、貴方達の気が済むよう処理して下さい。その程度で来須の家は廃れません、あの男を除名して、信頼して下さっていた皆さんに、祖父や僕から誠心誠意償います」
「このガキ……!」
「あかり」
腰を下ろした来須隼生が、あかりと目線を合わせていた。
「痛むか」
「…………」
「千里が、話したんじゃな。それならそうと、わしには会いに来てくれても良かったじゃないか」
「でも」
「こんな老いぼれが、出すぎた真似だと笑ってくれ。一度はお前さんを見捨てもした。しかし、わしには目に入れても痛くない千里が認めた妹は、わしにとっても守るべき孫娘じゃ」