Melty Life
第5章 本音
だったら死ね、と、あかりは思う。
あの頃、水和を支えて幸福へ導けるなら、それが来須でも誰でも、彼女を諦められると思った。あかりがかつて実妹だと思い込んでいた少女が水和を陥れた時も、見返りなく彼女を救いたかった。
しかし来須の立場に頼って、知香から得た証拠をあかりが彼に預けた翌週、彼は咲穂の陰謀を暴くと同時に、水和に心の丈をぶつけた。
自業自得とは思えない。来須を見込んだあかりの判断はきっと確実に水和を救った。ただ恨めしいのは来須だけだ。
「あかり。この部屋着良くない?先週、水和に同じピンクを贈ったからさ、白にすればお揃いになる」
「似合うわけないじゃん。来須先輩、真面目に選んでくれてる?」
「大真面目。飯田さんも嘆いてたよ。あかりは女子にモテるけど、あの子達、皇子様でも見てる目だって。こういう路線して、たまには甘えてあげてみたら」
「それは来須先輩の好みでしょ。飯田さんもいちいち報告しなくて良いのに」
「元、俺んとこの家政婦さんだからね。あかりのお世話係になっても、世間話のメールくらいするさ。じゃ、買ってくる」
「あっ、ちょっ……」
どさくさにまぎれてリボンやフリルの付いた寝具カバーまでレジに通している来須の後ろ姿を、あかりは見つめる。
ついこの間まで高校生で、妹の誕生日に引っ越し準備の一式を贈りたがる兄は、きっと稀少だ。
四月から、淡海ヶ藤でのあかりの最後の一年が始まる。水和に会いたくて入学したあの学校に、もう慕い焦がれた姿はない。
来須隼生があかりに用意した別邸は、一人で暮らすには広すぎた。住居というより屋敷と言うべきそこの管理は、先に飯田が白旗を上げた。おそらく窮屈な思いを持て余していたあかりの胸中察した彼女が、居を移すことを願い出てくれたのだ。来須はマンションも所有しており、飯田からすれば大仰な頼み事でもなかったという。
「有り難う」
「あとどこ行くかなー」
「荷物」
「お兄さんに任せなさい」
朝から下げてきたバッグ以外は断固としてあかりに持たせない来須を追いかけて、次の店へ向かう。