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Melty Life

第5章 本音









「あかり先輩、お誕生日おめでとうございますっ」

「おめでとー!どうだった?卒業式の出待ち人数ダントツだった、元生徒会長とのデート」

「テニ部の岡崎先輩か、実際どっちがイケメンだと思う??」

「玲、ダメだよ。来須先輩だとしても、あの人は──…」


「あっ、あかり先輩!何頼みます?皆さんもっ」


 華やかに笑う女性客がほとんどを占める紅茶が評判のカフェの片隅、可愛らしいインテリアが辺りを飾る、いわゆるインスタ映えする予約席。

 あかりの隣で、知香が手際良くメニューを広げる。もう一方の隣では、眞雪がスイーツのページをめくって、穴が開くのではないかというほど悩んでいる。向かい側にいるともか達も、肩を寄せ合って紅茶のフレーバーを選ぶ。


 今の状態を、きっと幸せと呼ぶのだろう。


 昨日、水和からもLINEが入っていた。
 来須を通して誕生日を知ったのだろう彼女は、ありきたりな祝いの常套句ではなく、残酷なほどあたたかい言葉を並べてくれた。また期待してしまう。明日にでも来須から水和を奪って、いっそ彼女の目を塞いでしまいたくなる。水和と過ごした八ヶ月前までの日々をもう一度繰り返せるならと、この先また彼女と向き合える時が来るならと、気持ちばかりが夢を見たがる。


 眞雪がいたから生きてこられた。大袈裟でも何でもなく、知香がいたから。


 全てを手に入れることは難しい。


 それでも、空いた部分は埋まらない。あかりの隣に、水和はいない。


 いつか、時が経てば、つと一人になった時、水和を想ってどうしようもなく胸が痛むこともなくなる?頭で理論を並べなくても、幸福だと確信出来る時が来る?

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