Melty Life
第1章 告白
充満した甘い匂いは、教室だけにとどまらない。体育会系の部員達の掛け声が、あちらこちらから聞こえ出してきた校庭も、そこはかとなく浮かれた空気が踊っている。
体育館裏の壁に背を向けて、水和は、今しがた自分を呼び出した二人の少年達を交互に見ていた。双方クラスメイトだが、見た目からして正反対の二人である。
「花崎(はなさき)さんも部活があるのに、わざわざ来てもらって悪いね。応じてくれて有り難う」
「ううん。生徒会の人の呼び出しは無視出来ないよ。演劇部には、遅れることを伝えてもらっているから」
「そっか、良かった」
少年の内の片方、来須千里(くるすせんり)がふにゃりと笑った。
いつでも制服のブレザーは皺一つなく、長くもなく短くもない黒髪に、他の女生徒ら曰く「美人」と形容出来る中性的な顔つきだ。小学生時代はいじめられていたんじゃないか、と、余計な心配をさせられる種類の容姿だが、運動神経は良いようで、ここ私立淡海ヶ藤高等部の理事長の孫という地位もあって、こうして生徒会トップにいる。ちなみに制服がいつもきちんとしているのが、彼の家に通う家政婦の仕事が抜かりないからというのは、水和の友人による情報だ。
そんな格式ある男が水和にどんな用事があって声をかけたのかは、明らかではない。しかも彼の隣には不良の竹邑(たけむら)。竹邑ゆうやが横柄な目つきで、水和を見下ろしていた。