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僕は貴女を「お姉ちゃん」だと思ったことは一度もない。

第5章 運命の日

 そしてついに、鈴姉の合格発表の日が来た。県外の大学なので、入試本番では、前日のうちに移動して、大学の近くで宿をとってから試験に臨んだ鈴姉だったが(ちなみに、おばさんが付き添いで一緒に行き、鈴姉の試験中にヒマつぶしで市内観光を楽しんでいたらしく、お土産のお菓子をいろいろ貰った)、合格発表はインターネットさえ繋げればどこからでも確認できる。俺は気になって、鈴姉の家に行き、呼び鈴を鳴らしてみた。

ピン、ポーン。

「あら、いつき君。いらっしゃい。今日発表なのよ。鈴ったら朝からずっとそわそわしてんのよ」

出迎えてくれたおばさんの後ろについて、リビングに移動する。そこには、スマホと受験票を机の上に並べて置いて、その前で腕組みしたまま前後にゆらゆら揺れてる鈴姉がいた。

「す、鈴姉?だいじょうぶ?」
「あー。怖い。見るの怖い。いつき、代わりに見て?」
「…なんでだよ」
「だって、なんか、怖いじゃん」
「こわくねぇよ。自信持てよ。いっぱい勉強したんだろ」
「だよね。そうだよね。じゃあ、自分で見るね…」

……。
…………。
……………………。

沈黙が痛い。そう思いながら鈴の次の言葉を待っていると、

「いっ、いっ、いつきぃぃ~!」
「なっ、なんだよ。泣くなよ。ダメだったのか?」
「受かってたぁ~~」
「良かったじゃん」
「…ちょっと、電話してくる」
「誰に?」
「友達!」

「友達!」って言った時の鈴姉の横顔が、初めて会った時に見たあの時の横顔と同じようにキラキラ輝いて見えて、一瞬ドキッとする。そして、なんだか嫌な予感もした。

…同じ学校の友達なら、学校に行けば会えるのに、わざわざ電話してまで合格を今すぐ伝えたい友達って、一体、誰だよ。誰なんだよー?!

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