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僕は貴女を「お姉ちゃん」だと思ったことは一度もない。

第5章 運命の日

 なんだか嫌な予感がした俺は、トイレに行くふりをしてリビングを出た。そして足音を殺して鈴の部屋にそっと近づく。小2の時に美羽と一緒に入って以来、もう4年も入ってない部屋だけど、部屋の位置は覚えている。あの時は、春から新1年生になる美羽が、買ってもらったばかりのランドセルを鈴姉に見せたくて背負って鈴姉の家まで行ったんだ。

ドアにそっと顔を近づけ、聞き耳を立てる。

「…うん、うん、受かったよ。春からは一緒の大学行けるね」

ところどころ、よく聞き取れないところもあったけど、「春からは一緒の大学行ける」って言ってるのだけはハッキリ聞き取れた。春から一緒の大学行くってことは、今は別々の学校に通ってるって意味だよね?どこで知り合った友達なんだ?塾か?
 まさか、あの、色白メガネ野郎…??あんなひょろひょろの女男(おんなおとこ)みたいなやつが鈴姉の好みなのか?

 聞き耳を立てていると、鈴姉が電話を切ったのか話し声が聞こえなくなった。そしてドアの取っ手に手をかけたような音。ヤバい、ここで聞き耳立ててたのがバレる!慌てて半歩後ろに飛びのく。間一髪でドアから離れ、鈴姉がドアを開いた時には、まるで、今、様子を見に来たばかりかのように装う俺。

「戻ってくるの遅いからさ、ちょっと気になって」
「ごめんごめん。一緒の大学に行こうねって言ってた友達に、合格の報告してた」
「友達は、受かってたの?」
「推薦枠だから先に決まってたんだよね」
「推薦受けるって頭いいんだね。もしかして、アイツ?」
「えっ?」
「ほら、塾の自習室でよく一緒になってた、色白で、メガネかけた…」

 俺は、いつもヤツのことをこっそり『色白メガネ』と呼んでいたので名前が出てこない。あいつ、なんて名前だったっけ…?

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