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僕は貴女を「お姉ちゃん」だと思ったことは一度もない。

第5章 運命の日

「…もしかして、鈴姉の彼氏?」

 一番聞きたくないことだけど、どうしても聞かずにはいられない。

「え、違うよ。そんなんじゃなくて、まだ、ただの友達」

 鈴姉は「まだ」っていう言い方をした。てことは…

「でも、好きなんでしょ?」
「いやぁ、でも…、今後どうなるかわかんないよ」

 鈴姉は、「好き」なのかと聞いた俺の質問を否定も肯定もしなかった。でも、好きなんだろうなとわかった。

「どうなるかわかんないから、まだ誰にも言わないでね?約束だよ」

 そう言いながら、昔、時々やっていた『指切りげんまん』のポーズで、小指を差し出してきた。俺は、どうしても鈴の指に自分の指を絡めることが出来なくて、鈴姉の手全体を上から手のひらで押し返しながら答えた。

「わかった。誰にも言わない」

 …泣きそうだった。なんて言うか、鈴の初恋(…今まで、浮いた話は一度も聞いたことなかったから、たぶん、初恋だ)はこれから何かが始まるかもしれないけど、僕の初恋は告白さえも出来ずにひっそりと終わるんだと思った。でも、女子高生とか女子大生とか、それぐらいの年齢の女性にたいして、ずっと恋愛すらせずに『6歳も年下の人間が大人になるまで待ってろ』というのは、そもそも無理な話だったんだと思った。

 …告白さえも出来ずに終わる?別に誰に遠慮する必要もない、言うだけなら言える。「好きだ」って、今ここで言ってみようかな。でも、本気にされないかもしれない。それに、とにかく怖い。言ってしまうことで、今の関係すら崩れてしまうかもしれないことが。

 …自分の言いたいことは遠慮をせずにハッキリと言う国民性の国で育ったくせに、いつから僕はこんなにも日本人っぽくなってしまったのだろう…。

 胸が痛い。ザワザワする。鈴姉の「運命の人」に、僕はなれなかった。最初に「おとうと」なんかになってしまったから…。

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